「…そんなはずないのにね」

陛下はただ、仮の妃が必要だったから側に置いただけで、私が特別だった訳ではない。

私をお城に連れてきたのも、この髪色が珍しかったから。

だから、勘違いしてはダメ。

「…戻ろう」

元の世界に。

陛下と関わる事の無かった、メイド生活に。

争いを生まない為にも。

大切な人を傷つけない為にも…。

起こさないように握られていた手を慎重に退かすと、私はベッドからおりて立ち上がる。

「さようなら、陛下」

これで最後。

陛下と関わる事はもう無い。

だから…。

私は陛下の頬にそっとキスをすると、静かに部屋を後にした。