お父様は私の事をよく分かっている。
以前の私ならきっとしただろう。
家族から認め、受け入れて欲しかったあの時の私なら。
…でも、
「私はやっぱり出来ない」
最近、実家から届いた手紙に目を向ける。
そこには『早く実行しろ』という内容の文章と、痺れを切らしたお父様からの“贈り物”が添えられてあった。
「微量でも死に至る猛毒が入ったチョコレート…。遅効性だから疑われる心配は無いって綴られてあるけど、そんなはずがないでしょう」
もしこれをアニ様に食べさせようものなら、確実に用意した私が疑われる。
お父様は私を、捨て駒としか見ていないのね。
分かっていたけど、その事実が何だか悲しい。
「もし実行しない場合は、代わりの者を送り込み、お前にはキツい罰を与える…」
私がしなくても、代わりの誰かがする。
こんなに美味しそうなチョコレートなら、アニ様は口にしてしまうかもしれない。
取りあえず、この計画を知っているのは私だけ。
そして、止められるのも私だけだ。
私は立ち上がると、便箋とペンを手に取った。
名前のない手紙をアニ様宛てに送れば、きっと警戒して下さるはず。
警備が増えれば、きっと相手も下手には近づけない。