「アニ様…」

カーテンを締め切った暗い部屋に、私…リリアンのか細い声が静かに響く。

自らこの様な場所まで来て下さったと言うのに、私はどうしてもアニ様に会う事が出来なかった。

自分でもどうしたら良いのか分からない。

ただ私を悩ませているのは、床に散らばった何通もの手紙。

全て実家から届いたもので、差出人は伯爵であるお父様からだった。

『久しぶりに元気な顔が見たい。一度、家に帰ってきなさい』

メイドになると告げた時、関心の一つも示さなかったお父様から届いた珍しく優しい文書。

六つ歳の離れた兄と、三つ下の妹。そして、五つ下の弟の中で一番の出来の悪い私は、伯爵家の皆からいつも疎ましい存在として蔑まれていた。

メイド達からも居ないものとして扱われ、いつも辛くて。

皆を見返したい。凄いねと言わせたい。

初等部を卒業した後にお城のメイドとなったのは、そんな気持ちからだった。

例え希望していた側近部に入れなくても、働いてさえいれば可能性はある。

私は絶対に妃になってやる。

…そう。全ては愛されたいその一心だった。