翌日。

契約に同意した事で、私は皇帝の妃となった。

部屋も客室から後宮の一つ、サファイア宮を与えられ、朝から荷物の移動に追われていた。

「とても…美しい場所ね」

白と青で統一された、まるで宝石のように美しい宮。

長い間、人が暮らしていなかったとは思えない程、建物内は清潔に保たれ、家具は輝きを放っている。

「サファイア宮も大変素晴らしいですが…アニ様をご寵愛なさっている陛下の事ですので、ルビー宮をお与えになるのかと思っておりました」

荷物を抱えたアンナは、そう言ってどこか不満げに室内を見渡した。

「ルビー宮は正室になった方のお住いだから」

「アニ様は何れ正室になられるお方です!ルビー宮をお与えになるべきでしょうに…」

アンナが私を慕ってくれてる事は伝わってくるけど、一時の妃相手に陛下がルビー宮を与える事はない。

だけど、それをアンナに教えるわけにはいかない。

口外は契約内容に反するから。

何て返そうか悩んでいると、紅茶をのせたトレーを手に持ったサニーが姿を見せた。

「アンナ。確かにわたくしも同じ意見ですが、まずアニ様でなくお妃様とお呼びなさい」

「あ…大変失礼しました!つい…」

正直、名前呼びの方が嬉しいけど…妃となった以上、そうもいかないのだろう。

妃としての務めを果たす事が、解放の条件。

私も態度を改めなければ。

でも…

「私は貴女達と距離が出来るのは悲しいわ。だから、私達しかいない時は、今まで通り呼んでくれないかしら?」

以前のような関係を保っていたいと思うのは、妃失格だろうか…。