温厚な性格に見えるからと、侮ってはいけない人物だ。


「こちらを国王様宛てに預かっております」

「…ほぅ?」


書状を手渡すと、国王は早速それに目を通す。

帝国としてはレイクロー王国の戦力は必ず確保したいところだ。

「………ふっ、これは面白い。当然王国はこの要請を聞き入れよう」

「深く感謝を申し上げます」


取りあえず、これでやっと俺の仕事は終わりだ。


「思ったより、あの若造は本気のようだな」

「………あの、パーティーで一体何があったのでしょうか?」

あの時は『関係無い』の一言ではぐらかされたが、気になって仕方ない。

アイツが感情的になると言う事は、恐らくあの女性が関わっているのだろうが。

「あの若造…宰相には教えなかったのか」

呆れたように深いため息をつく国王は、やはり何かを知っている様子だ。

「ご存知の範囲で良いので、教えて頂けないでしょうか?」

せめて、ヴィスタン王国を滅ぼす理由ぐらいは宰相として把握しておきたい。

「うむ……とは言え、余は遠くから眺めていた程度にしか分からんがな」

「それでも構いません」

「…そうか。余が見たのは我儘小娘…ゴホン。ヴィスタン王女がある女性に向かって何やら癇癪を起こし、手を上げたところぐらいか」


「手を上げた…?」

「頬を叩いたようであった。そこに若造が現れ、それはもう大変じゃった」

思い出して苦笑する国王に、俺も思わず頭を抱えたくなった。

王女の傲慢稚気な性格は知っていたが、まさかその様な事をしでかすとは思わなかった。