「宰相様……本当に向かわれるおつもりですか?」
護衛騎士の一人が、前を歩く俺に向かって恐る恐る声をかける。
手に持っているのは先程リードから渡された大量の書状で、今から俺はこれを交渉に回らなければいけない。
流石の俺でも骨が折れそうな作業だが、
「陛下の命令だからな…」
命令に従うと言ったからには実行するしか無い。
…まぁ、アンディード帝国の要請を断る国など、いないとは思うが。
要請を断る行為は同盟に背く事を意味している。
帝国を敵に回すだけでなく、大きな後ろ盾を失うような真似はどの国もしたくないはずだ。
入手した他国の部屋割りを見ながら、次々と交渉して回る。
想像以上に交渉がスムーズで、残すところ最後の一国となった。
「この様な夜分に申し訳ございません。アンディード帝国の皇帝陛下より、書状を預かって参りました」
「どうぞ中へお入り下さい」
出迎えた騎士は軽く頭を下げると、中へ案内した。
………そう言えば、国王に会うのは久しぶりだな。
アンディード帝国の隣にある武装国家…レイクロー王国。
リードがまだ皇帝位に就く前、剣術や統率術などを教え鍛えた人物だ。
「こうして会うのは久しぶりじゃな。皇帝の即位式以来か?」
「…その節は大変お世話になりました」
大柄な体型に顎下の白髭。
穏やかに笑っているが、レイクロー国王のその姿からは王としての威厳を感じる。