背後から突き刺さるような視線を感じながらも陛下と一緒にやって来たのは、開放感のある屋外テラスだった。
「わぁ…」
緑色の芝生が敷かれ、帝国では見ないような美しい花が咲き誇っているその光景は、まさに小さな庭園。
至るところに椅子や机が設置されており、その場一帯が休憩スペースになっていた。
「先程そなたを探している時に、偶々この場所を見つけたのだ。静かで…ゆっくり休めそうな場所だろう?」
「はい…凄く心が落ち着きそうな素敵な場所ですね」
皆、会場内でのお喋りに夢中なのか、それとも社交で忙しいのか。
その場には誰の姿もなく、私と陛下だけの静かな空間となっていた。
「さぁ、腰をかけるとよい」
「…あ、ありがとうございます」
恐縮に感じながらも、陛下が引いてくれた椅子に腰を下ろす。
一番恐ろしいのは、このような状況に慣れつつある…ということ。
今は客人としてお城に滞在しているけれど、陛下の興味が薄れれば私はお城から追い出される。
それについては私も望んでいた事だから特に問題はないのだけど、メイドに戻った時にこの状況は良くない。
私はメイドとして陛下の後ろに控え、陰ながら支える存在でいなくてはいけないのに。
「…陛下」
「どうした?」
陛下の事をもっと知りたい……なんて。
「…………いえ、やはり何でもありません」
それこそ王女様の言うように、自分の立場を考えるべきだ。
メイド業に戻った時の事を考えて…。
「王女の言葉は気にしなくて良い」
「え…?」
まるで私の心を見透かしたような言葉に思わずドキッとする。
確かに普通であれば一々相手にする必要はないのだけど、相手は他国の王女様。
それに言っていた事も間違いではないし、適当に対応するわけにも―――……
「王女がそなたに絡んで来る事も、恐らくもう無いはずだ。帝国代表として参加しているそなたに無礼を働けば、国際問題になりかねない事を王女は先程身を持って知ったはずだからな」
「あ…」
陛下が言ったあの冗談のような言葉は、王女様を牽制する為だったのね。
私も帝国代表としてパーティーに参加したからには、身分を忘れてしっかりしなくては。
帝国の―――…陛下の恥とならないように。
「そろそろ会場へ戻るとしよう」



