その一言で、私は先ほど言われた言葉の意味に気づく。
通常、外国で主催されるパーティーでは皇后か代わりの側妃等が陛下のパートナーを務める。
どちらも居ない場合には高貴な家柄の令嬢が選ばれるそうなので、王女様は帝国に妃がいない事を把握した上で私が代わりの貴族令嬢だと勘違いしてしまったようだ。
本当は普通の平民なんだけど……。
「えっと……」
流石にこのようなパーティーで素直に平民だと答える訳にはいかない。
何て返事をしたらよいか悩んでいると、王女様は返事を待たずに続けて質問をしてきた。
「貴女、名前は何て仰るの?」
「あ…失礼致しました。私はアニ・テリジェフと申します」
「知らない家名ねぇ…。と言う事は、大貴族の出身ではないと言う事かしら?」
「えっ」
その言葉に思わず驚く。
名前ぐらいなら別に教えても大して問題にはならないだろう。
そう思って答えたけど…。
「ふふっ、驚いてるようね。帝国はわたくしにとって第二の故郷。主要貴族の把握は当然の事だわ!」
そう言うと、王女様は得意げに笑った。
確かに王女様が他国の貴族やパーティーの参加者について把握していても可笑しくはない。
けれど、まさか名前だけで見破られるとは思わなかった。
「陛下を誑かしてこのパーティーに参加したのかは知らないけれど、身の程を弁える事ね!」
しかし、王女様が把握しているのは恐らく上位貴族のみ。
幸いにも全ての帝国貴族を把握している訳では無さそうだ。
もし、把握していたのなら私が貴族ですらない事がバレていたはずだから…。
「ついでに言うと、貴女は陛下に相応しくない。相応しいのはわたくしのような高貴なる生まれの~…」
頭の中で色々な事を考えながら王女様の話を黙って聞いていると、
「王女」
隣にいた陛下が口を開いた。
「はぁい、陛下~!」
話しかけられた王女様は、嬉しそうに頬を緩ませながら返事をする。
うっとりとした表情で陛下を見つめ、期待の眼差しを送る。
しかし、次の瞬間。
その顔は青ざめる事となった。
「余は先程失礼すると言ったはずだが?それを分かっていて止めたのであれば、帝国の皇帝である余の言葉を軽んじている……と言うことだろうか?」
「い、いえ…そんな事は…っ!!」
陛下の口からまさかその様な言葉を飛び出すとは思ってもいなかった王女様は、焦った様子で必死に首を横に振る。
「先程はあえて咎めなかったが……その無礼な態度の代償として、ヴィスタン王国へ攻め行っても別に良いのだが?」
「た…大変…失礼致しました…っ!!」
不敵に笑う陛下の姿に、王女様の身体が恐怖で震える。
……恐らく冗談だとは思うけれど、陛下が言うと冗談には聞こえないのよね。
「二度目は無い。行こう、アニ」
「は…はい、陛下」
陛下はそう吐き捨てると、私を連れてその場を後にした―――…。



