取り合えず、お皿を手に持つと目に入ったものから食べていくことにした。
「わっ、何これ!レタスがシャキシャキしていて…このハムなんて…」
つい思っていることが口から漏れる。
周囲に人がいなかったから良かったものの、見られていたら完全に変人扱いだ。
「これは卵が絶妙な柔らかさね!ふむふむ…」
メイドに戻ったときに、これは使えるかもしれない。
夢中で食事を楽しんでいると、後ろから私を呼ぶ声が聞こえてきた。
「こんなところにいたのか」
「陛下」
「余の側から離れるでない。攫われたかと思い心配した…まぁ、この様なパーティーでそんな馬鹿な真似をする者は居ないと思うが…」
「え?」
「まぁ…良い。それよりも美味しそうに食べるのだな。そんなに美味しいのか?」
陛下の視線の先には、私が先程お皿にのせたショートケーキがあった。
「あ、はい!とても美味しいですよ」
この生クリームの絶妙な甘さ……。
中のスポンジと良い感じに調和していて、まさに絶品。
私も客人として皇宮に滞在している間、美味しいスイーツを食べさせて貰っているけど、ここに置いてある料理はどれも比べ物にならないぐらいにレベルが高い。
是非陛下にも食べて頂きたい、けど…
「もし陛下がお食べになられるのでしたら、こちらの方が宜しいかと」
そう言うと、私は違うケーキをお皿に取り分けた。
「これはチョコレートケーキか?」
「はい、ガトーショコラと言います。先程私も食べましたがビターな味わいで、甘い物が苦手な陛下でも抵抗なく召し上がれると思います」
「………」
流石にショートケーキは甘い生クリームが堪えると思うから、それならガトーショコラの方が陛下は食べやすいはずだ。
まぁ、それでも多少は甘いと思うけれど。
……って、あれ?
「どうかされましたか?」
何だか陛下の様子が可笑しい。
まるで私の事を警戒しているように見えるけど……。
「…何故、余が甘いものを好きではないと思った?」
「え?」
何故って…陛下はいつも無糖のコーヒーしかお飲みにならないし、食後のスイーツには絶対に手をつけない。
甘い物を苦手としている事は、近くで仕える側近部の者であれば誰もが知っている情報だけど――――…………。
あ…っ!!
当たり前のように話していたけど、この事は側近部しか知らない極秘情報……。
メイドでも何でもない、ましてや国境近くで偶然知り合った私が知るはずの無い情報だ……!



