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あれからどのくらい時間が経過したのか。
部屋の中でのんびり過ごしていると、外から部屋のドアが叩かれた。
「失礼致します。アニ様、そろそろ―――…」
「分かりました」
ファンさんの声に椅子から立ち上がると、ドレスが汚れない様に気をつけて進む。
今日私に用意されたドレスは、まるで深海を想像させるような大人っぽい雰囲気のドレスで、
サニー達の話によると陛下とデザインを合わせているそうだ。
きっと馬車には私一人で、陛下とは会場で落ち合う事になるのだろう。
そんな事を思いながら馬車の近くまで歩いて行くと、ある人物の姿に私は思わず駆け寄った。
ドアの前に立っていたのは―――…
「陛下…っ!?」
「来たか」
いないと思っていた陛下の姿だった。
ファンさんからは何も聞かされていなかったし、てっきり戻ってこないとばかり思っていたけれど……。
外で待たせていると分かっていれば、急いで向かったのに……!
「お待たせしてしまい、申し訳ありません…」
「問題ない」
「あっ、ありがとうございます…」
差し出された陛下の手を借りて、馬車へ乗り込む。
何と言うか…メイド時代では到底考えられない光景だ。
「今日は何をしていた?」
「早朝から支度をしていました。後は、部屋でのんびり過ごしたり…あ!ファンさんがダンスの練習に付き合ってくれました」
「…ファンが?」
ファンさんの名前を出した瞬間、何故か陛下の眉間にシワがよった。
「はい。ファンさんが練習に付き合って下さるというのでお願いしました……が、いけなかったでしょうか…?」
どこか不機嫌な陛下。もしかして私、無意識に何かいけない事を言ってしまったのだろうか。
「何故、そんな事を聞く?」
「え、それは…陛下の機嫌がどこか宜しくないように見えましたので……」
「……は?」
私の言葉に陛下は驚いたような表情を見せた。
「どうかされましたか?」
「俺は何故、不機嫌になった…?」
不思議そうに首を傾げる陛下。
もしかして不機嫌になるつもりは無かったのかな?
「私が何か気に触る事を口にしてしまった訳ではないのですね?」
「気に障ること……か」
陛下が何やら考えているって事は、一応心当たりはあるって事だよね…?
不機嫌になるような事を言った覚えは特にないけれど、一応謝っておこう。
「申し訳ありませんでした…」
「…いや、その…気にするな」
「……?」
どこか様子の可笑しな陛下は、そう言うと窓の外へ視線を向けた。



