暴君陛下の愛したメイドⅠ《修正版》



あの時は通りすがりの人が助けてくれたから良かったけど、私にとっては完全にトラウマだ。

「左様ですか…。話の続きはいかがいたしましょうか?」

「続けて大丈夫です」

ファンさんがせっかく陛下の話をして下さっているのだから、最後まで聞いておきたい。

「リードは皇后様がお産みになられた嫡子ですが、後継者争いで色々と問題があったそうです。皇后様は正室ですが前皇帝は側室の女性を愛されておりましたから、当然寵愛する女性の子供を皇位に就かせようとするわけです。
嫉妬に狂う母や女に溺れる父の姿。リードが何故冷めた性格になってしまったのか、ご理解頂けますか?」

「…はい」

……かなり辛かったはずだ。

恐らく甘える事も許されなかったと思う。


「リードの周りは常に敵だらけだったからこそ、私は宰相になろうと決めたのです」


ファンさんが宰相になった理由でそれだったんだ。


「…私は陛下のこと嫌いではありません」

好きかどうかは…よく分からないけど。

「いきなり連れて来られて当然戸惑ってますが、この生活も案外悪くないですし……」

あんな事を言われると、より陛下という人物が気になってしまう。

「…けど、私には何の"力"もありませんよ?」

陛下の過去を知って尚更思った。

何故、ファンさんが私にあんなことを言ってきた理由が分からない。

陛下に何か特別な事が出来るわけでもないし…。