―李仁side—

ずっと怖かった。人を信じることも自分を信じることも。
また、要らないって言われたら……棄てられるって思ったら怖くて動けなくなってしまっていた。恐怖に支配されていた。




でも、進みたいと……抗いたいと思う自分もどこかにいて、必死に助けを求める自分がいた。



「……私を信じてくれる方と…私は出会えるでしょうか……?」



だから、彼女に揺さぶられた。彼女の優しさに漬け込んで彼女を試した。彼女は本当に私を必要としてくれるのかどうか。



「もう出会っていますよ。」
「え……?」


「私は橙さんを信じています。勿論輝石くんや琉生くんも橙さんを信じています。たくさんの苦しみを背負って生きて、新たな今を生きようとしている橙さんを。」



彼女は…彼女の言葉は…とてもあたたかい。嘘偽りがなく私自身を見ようとしてくれている。それが今は分かる。



本当は気づいていた。信じてくれる人などいないと思っていたのではなく、私が誰かを信じることが怖かっただけであると。


でも…それを認めたら自分が弱いことを認めることになる。弱いと認める自分が汚らわしいと思ってしまう。それが嫌で目を背け続けてきた。自分から逃げてきた。



「私が…信じてもらえるなど……ありえない……酷いことをしてきた私など……。」


「ありえなくないです。いいじゃないですか、今は私たちだけでも。たった3人かもしれないけれど、貴方の味方です。機嫌を取ろうとしたり、上辺だけで付き合っていこうなど思っていません。本気でぶつかってみたいと思っています。無理して信じてほしいなんて言いません。嫌だったら嫌って言ってほしいです。嬉しかったら嬉しいって言ってほしいです。皆、橙さん自身を知りたいと思っているのですから。」



そんな私の不安を……心を……貴女は浄化してくれた。光をくれた。ぬくもりをくれた。私のために傷を負ってまで。


それなら、私も少しずつ目を向けてみようと思う。


「今まで…私に本気で触れようとする人はいなかった。輝石や琉生でさえどこか距離を感じていて信じることなど…怖かった。私は……信じてみてもいいのでしょうか……?」


私を信じてくれるという彼女たちと私自身を。



「はい。でもそれは……私が決めていいものでありません。橙さん自身が信じてみたいと思ったタイミングで信じてみればいいんです。動いてみたいと思ったときでいいんですよ。だって、橙さんの人生は他の誰でもない橙さんのための人生なんですから。」




もう焦らなくていい。焦らなくていいんだ。自分のために生きて……いいんだ。自分のために。


「ありがとう…花月さん。」