琉生くんは、「今日のご飯はサプライズだから楽しみにしててね。」とだけ言ってこの部屋を出て行った。


サプライズってことは珍しい食事が出てくるのかな……?




「食事の時間です。」
「はい、ありがとうござい……橙さん……。」



私の前に立っていたのは橙さんで、以前とは雰囲気が変わっている気がした。


もしかして琉生くんが言っていたサプライズってこのこと……?



「食事…ありがとうございます。」

「あの日……なぜ貴女は私の心の捌け口になろうとしてくださったのですか…?貴女にとってメリットがあるわけでなく傷を負うだけなのに……。」


「それは…橙さんの心から苦しみを解放したかったからです。きれいごとだと、偽善者だと言われてしまえばそれまでなのですが、それがあの時思ったことです。本当に大馬鹿者ですよね。」


「……貴女はどうしてそうやって笑うことができるのですか…?感情を露わにすることができるのですか…?すべてを失ったというのに…。」




「……失ったからです。失ったからこそ、出逢えたものがあるからです。止まってしまった時を動かして導いてくれた人がいたからです。今の私が生きていられるのはその人たちのおかげで自分1人だけの力じゃないです。信じてもらえるから私も信じることができる。正面からぶつかってくれるから私もぶつかってみようと思える。それが……私が笑うことができる理由です。」


「……私を信じてくれる方と…私は出会えるでしょうか……?」



そう言う橙さんの手は震えている。きっと変わろうとしているんだ。変わるために……恐怖と闘っている。それなら、私はその背中を押したい。



「もう出会っていますよ。」
「え……?」


「私は橙さんを信じています。勿論輝石くんや琉生くんも橙さんを信じています。たくさんの苦しみを背負って生きて、新たな今を生きようとしている橙さんを。」

「私が…信じてもらえるなど……ありえない……酷いことをしてきた私など……。」


「そんなことないです。いいじゃないですか、今は私たちだけでも。たった3人かもしれないけれど、貴方の味方です。機嫌を取ろうとしたり、上辺だけで付き合っていこうなど思っていません。本気でぶつかってみたいと思っています。無理して信じてほしいなんて言いません。嫌だったら嫌って言ってほしいです。嬉しかったら嬉しいって言ってほしいです。皆、橙さん自身を知りたいと思っているのですから。」



「今まで…私に本気で触れようとする人はいなかった。輝石や琉生でさえどこか距離を感じていて信じることなど…怖かった。私は……信じてみてもいいのでしょうか……?」


「はい。でもそれは……私が決めていいものでありません。橙さん自身が信じてみたいと思ったタイミングで信じてみればいいんです。動いてみたいと思ったときでいいんですよ。だって、橙さんの人生は他の誰でもない橙さんのための人生なんですから。」