そういうわけで、白梨花月、ただいま桃瀬さんの部屋の前にいます。

コンコンッ

「桃瀬さん、いますか?」

何の返事も返ってこない。部屋にいないのかな?

「花月です。私、桃瀬さんに謝りたくて…。」
「…花月…?」

「私、桃瀬さんにキスしたなんて本当に覚えてなくて……。それに、桃瀬さんに構わなかったのは何でもできる人だから手伝わなくても平気かなって、勝手に思い込んじゃって…。嫌な思いさせてごめんなさい…。」

「…。」

「私、ここにきてまだ好き…とか分からなくて…。皆さんのことは好きです。でも、どういう好きなのかはわからないんです。だから、今はまだちゃんとした答えが出せなくて…。」


ドアの向こうからは何の返事も返ってこなかった。


「あんまり話しててもまた、嫌な思いさせちゃいそうなので行きますね、私。」


桃瀬さんの部屋から離れようとドアを背に向けたとき――


ガチャ

「え?」

後ろに思いきり力強く引っ張られた。それと同時に目の前でドアが閉まっていく。


「桃瀬さん…。」

力強く抱きしめられたことで心臓の鼓動が早くなっていく。


「……僕のほうこそ……怒ってごめんね…。」
「ううん…桃瀬さんは悪くない…。」
「そうだ、これ…。」

目の前に見覚えのある白い封筒が差し出された。


「僕が破っちゃった手紙…。」

セロハンテープでぎこちなく繋がれたボロボロの手紙。桃瀬さん、直してくれたんだ。

「何枚かなくしちゃったけど文字の部分はつなげられたから…勝手に読んじゃったけど…。」

「ありがとう…。」

「ねえ、花月…これからも僕と仲良くしてくれる…?」
「もちろんです。だって、桃瀬さんは大事な家族だから…。」


桃瀬さんは少し複雑そうな顔をしていたけど少し笑ってくれた。



「ほっとしたら僕お腹すいちゃった。血…飲みたい。」
「うん…。」

制服のシャツのボタンを外し首元を差し出す。わずかにかかる桃瀬さんの吐息が熱い。耳元でそっと「かわいい。」と囁かれ、全身がしびれるような快感が私を襲った。


仲直りができて本当によかった。