―悠夜side—
「…悠夜、これってまさか……。」
「恐らく能力が暴走して制御できなくなっている可能性が高いです。」


おそらく暴走しているのはテレパシーの能力。パニックで念力も作動してしまっていると厄介だ。千里眼の能力も暴走したら花月さんの精神が壊れてしまうかもしれない……。


「聖、部屋には私が先に入ります。能力が暴走しているのであれば彼女と目を合わせただけで吹き飛ばされるでしょう。私へと彼女の意識が向いている間に彼女の元へ行きなさい。」

「…そんなことしたら悠夜の体が…。」

「暴走しているということはパニックを起こしている可能性も高い。悔しいですが……私の声より貴方の声の方が彼女に伝わるはずです。彼女を安心させてあげなさい。」


花月さんの部屋の前へ行くとドアさえも跡形もなく吹き飛んでいた。部屋の窓ガラスは全て割れ残骸が床に散らばっている。部屋中に残る衝撃での亀裂や吹き飛んだであろう衣類。ベッドに目をやると蹲っている彼女がいた。



「来ないで!」


顔をあげた彼女と目が合った瞬間、私の体が大きく後ろへ吹き飛んだ。思い切り背中を壁に強打した。


「あ……私……ごめ……なさ……」
「…花月、落ち着け。」

「聖……さん……?私…いま……悠夜さんを……。」

「…悠夜なら大丈夫だ、落ち着け。大丈夫だから。」



「何が…?何が大丈夫なの……?私死ぬんでしょ!?」
「なんでそのことを……。」


「さっき、聖さんが部屋を出て行ったときから頭の中で悠夜さんが楓ちゃんたちと話している情景が見えたの。私……今夜の飢えに耐えられなかったら死ぬんでしょ……?それが分かったとき途端に怖くなって、そしたら、急に体がいうこと聞かなくなって……目に入ったものが全て壊れていって……。怖い…怖いよ……死ぬのが怖い……。」

「…絶対に死なせはしない。俺らが必ず助ける。」



まったく……2人の世界に入るのは構いませんが、少しは私の体のこともいたわってほしいですね。


「……聖、タオルでもなんでもいいから彼女の目を覆いなさい。先ほど一瞬でしたが……彼女の目を見た瞬間、私の体が飛ばされました……。おそらく彼女の念動力は……見たものを……カハッ……。」

「…悠夜!」
「私のことは構わず先に……やりなさい。」


純血種の吸血鬼である私をいとも簡単に吹き飛ばしたあの威力。やはり人間の体では抑えきれないと
いうことか……。

「…悠夜、タオルを巻いたぞ。」


「……花月さん、貴女の覚醒はもう始まっている……おそらく…今以上の痛みと苦しみと……恐怖が貴女を襲います。」
「はい……。」


「ですが何があっても絶対に貴女を死なせません……だから……私たちを……聖を信じてくださ……」

「悠夜さん…?悠夜さん!?」

「…気を失ったみたいだ……悠夜は俺の身代わりになってくれたんだ。お前の暴走を見越して。」

「私のせいで悠夜さんが………。」

「…花月、夜が明けるまで俺がここにいる。覚醒が進めば牙が生え、血を欲する。本当に死ぬほど苦しいと思う。でもな……そうなったら俺の血を吸うんだ。それで飢えはおさまる。」

「もし……私の体がもたなかったら……?」



「…そんなことはさせない。でも……もしお前が死んだら、俺もお前の後を追って死ぬ。絶対にお前を1人きりにはしない。」

「うん……。」



「…体は…辛くないか……?」
「さっきよりは…少し落ち着いたみたい。」

「…少しだけ俺の話を聞いてくれるか…?」
「うん。」


「…お前と付き合えることになって昨日の今日でこんなことになっちまって俺も怖かった。俺はずっと……お前との未来を夢見てた。一緒に暮らすことも……国王になることも……お前となら描いていきたい未来だと思った。でも……さっきの俺らの会話を……見ていたなら分かるかもしれねえけど……王妃になるってことは何度も何度も子孫繁栄のために子供を産み幾多の吸血鬼の前で見世物にされることもあるかもしれねえんだ。俺は……花月との子供なら欲しいと思ってる。一緒にこの世界を変えたいと思ってる。でも…俺はお前が嫌ならそんな未来なくてもいいとも思ってる。」

「私も……聖さんと一緒にいたいよ。もちろん劉磨さん、奏、悠夜さん、泰揮クン……楓ちゃん、結愛ちゃん、あずさちゃんとも。子供を産むっていうのはまだ全然分からないけど……でも、学校に行っていて思ったの。身分なんてものが無くなって吸血鬼も人間も互いに尊重し合って一緒に暮らせる世界を作れたらって。そうしたら柚さんも、輝石くんも、李仁さんも、琉生くんも……きっと皆が幸せになれるって。だから……私は…こんなところで死にたくない。」



「…ああ。」