柚が来てからというもの、俺たちの生活は激変した。

「ほら~!皆起きて~!」

カンカンカンカンと柚がフライパンを鳴らす音が聞こえる。

朝からうるせぇ。

「ん~…僕まだ眠い。」
「ほら、シャキッとする!聖も寝ないの!」

みんな、朝からたたき起こされて眠たそう。聖に至ってはハリセンで頭を叩かれてる。

「皆で食べるご飯はやっぱり美味しいね。」

「まったく…静かにできないものですか?」
「だって、1日は24時間しかないんだよ!めいっぱい楽しまなきゃ!」

「アタシ、ご飯じゃなくて柚ちゃんの血がいいわぁ。」
「もう、泰揮クンは本当にそればっかりなんだから。」
「だって、美味しいんですもの。」

このとき、全員が柚に惹かれていたのかもしれない。自分たちが人間を襲うという罪悪感もなく、ただ楽しいと思える日々。

でもそんなのはすぐに壊れてしまった。
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「なあ、柚。お前のことが好きだ。付き合わねえか?」
「ほんとうに……?私も劉磨のこと大好き。そんなこと言ってもらえるなんて夢みたい。」


出会ってから数か月、晴れて俺たちは恋人になった。みんなも理解してくれて俺たちが付き合い始めても仲良く暮らせているはずだった。

でも世界は残酷だ。このころから、俺たちの本来の目的がそれを邪魔し始めた。

「いいかげんそろそろ柚と契りを結んだらどうですか?蜜月まで時間がありません。」
「俺は…そんなことしたくない。だって、吸血鬼の花嫁になったら一生吸血鬼として生きていかなきゃいけないんだろ?柚には人間のままで生きていてほしい。」

「じゃあ、どうするのですか?このままでは我々は掟破りを犯してしまいます。それに、あなたが彼女を吸血鬼にしなければ私たちだけでなく彼女も制裁を受けるのですよ。」

「悠夜も劉磨も落ち着け。」



「劉磨、皆…こんな夜遅くにどうしたの?」


「柚……柚は、吸血鬼になりたい…?」

「吸血鬼になったら…ずっとみんなと一緒にいられるの?…だったら、私は吸血鬼になりたい。」

「いいのかよ……1度吸血鬼になっちまったら2度と人間には戻れないんだぞ。」
「それでもいいよ…劉磨と…皆といられるなら私はそれでいい。」

柚の言葉に誰も何も言えなくなった。柚が選んだのならば俺たちにはそれを否定する権利はない。

「じゃあ…あとで、俺の部屋に来い……。そこで契りを結ぶから。」

「劉磨…。」


「俺、部屋で準備してくる…。」


好きな女を守れない無力さも…吸血鬼としての定めも恨みも全て飲み込んでその晩、柚と契りを交わした。