――3年前――

今回の女性は中流階級の15歳の女性だと聞いた。親や家のために生贄にされる。そんなの憐れだよな。

ダンスにも飽きテラスに出ると、そこには1人の女性が立っていた。直感的に、この女性が今夜の生贄だと俺は感じた。

「貴女もここで休まれているんですか?」

警戒心を持たれないようになるべく綺麗な言葉で声をかける。


「ダンスが嫌で…お父様の目を盗んで抜けてきたの。貴方はこの屋敷のかたですか…?」
「まあ、そんなところです。この屋敷で1人でいたら危ないですよ。ここは吸血鬼がいるんですから。」

「吸血鬼…?そんなの架空の生き物ですよ。この世にいるわけがありません。」

さすがに貴女の目の前にいます、とは言えなかった。それに、多分この人は自分が生贄にされることに気づいていない。都合のいい言葉で利用され捧げられた生贄。


「ダンスが嫌なら別室で舞踏会が終わるまで休まれますか?」
「え……別室?」

「行かれますか?」

彼女の前に手を差し伸べる。彼女は俺の手に手を重ねた。




「どこまで行くんですか?」
「つきました。」

「ねえ、あなたもここにいるのでしょう?だったら、私の話し相手になってください。」

驚いた。いくら自分がこのパーティーに呼ばれている理由を知らないとはいえ、無防備で純粋な瞳。

「では、この屋敷の吸血鬼についてお話ししましょうか。この屋敷で吸血鬼に出会った場合、まずついていってはいけません。2度と家に戻れなくなってしまいます。そして今、ある吸血鬼は目の前に極上の獲物を見つけています。」

「あら、その話まるで私たちみたいですね。私はあなたについて行ってしまった。そして私は今あなたの目の前にいる。」

フフフと楽しそうに笑う。お前がその獲物なんだけど…

「でも、あなたはそんなひどいこと絶対しないと思います。」
「え……。」
「だって、こんなにいい人が酷い人なわけないから。」

屈託のない笑顔で笑う。なんでそこまで信じられるんだ。利用されているのに…騙されているのに…何で…。


「……やれ、奏。」
「は~い!」

彼女の後ろから奏が現れ彼女を羽交い絞めにする。これで彼女も自分の立場を理解して身を案じるだろう。


でも、彼女の反応は俺たちが予想していたものとは全く違った。

「え…本当に私が獲物なの?」

怯えることもなく逃げることもなくただ淡々としていた。

「お前、怖くないのかよ。いくら信じてなくても吸血鬼が人間の血を吸うのはわかるだろ?」
「うん…でも、楽しそうだから…勉強や家のために生きるなんてもう嫌なの。私は…自由になれるのなら構わない。」

こいつ…分かっていたのか。自分が家のために売られることを。分かっていたんなら何で…そんな明るい顔をしていられるんだ。

「自由なんか…ねえよ。お前は……お前がここにいる意味は…。」