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やっと勉強が終わったと思ったら次はお父様との会食。令嬢というのも楽ではない。


「最近調子はどうだ?さきほど森山から体調がすぐれないというのを聞いたが…。」

「落ち着きました…白梨家の名に恥じないよう精進いたします。」
「そ、そうか…。あまり無理はするな。」

「はい…。」


こんなにも無愛想な娘では、さすがの父も困惑していることを隠せないのだろう。別にお父様のことが嫌いなわけではない。ただ、この恵まれた環境に縛られ、自由がほとんどないことに呆れと憤りを感じているだけ。毎日決まったことをし、決められた相手としか会話をしない退屈な日々。


「そ、それよりお前ももう舞踏会に出席する年になったな。レディとして、立ち居振る舞いには気をつけなさい。今回の舞踏会ではお前の婿候補との挨拶もある。たくさんの人と話し、自分にふさわしい相手を見つけなさい。」

「はい…お父様。」


食事をとり終えると何人かのメイドが私をドレスルームへと連れて行く。この日のためにと親が用意したたくさんのドレスに囲まれ舞踏会への準備をする。


「お嬢様、どちらのドレスになさいますか?」


この女性は私の専属メイドで雪乃(ゆきの)という。唯一この屋敷で気を許せる相手だ。私が幼いころからの知り合いで私のためにメイドになりたいと言ってくれた人。


「そうね…これなんかどうかしら。」

私の目を引いたのは真っ赤なマーメイドドレスだった。スパンコールが散りばめられていてレースが贅沢にあしらわれたつくりになっている。

「そんな過激なドレスを着たら、殿方はきっと花月様に見とれてしまいますね。明日の舞踏会、思い切り楽しんでくださいね。」
「ありがとう……。そうだ、あなたも一緒に舞踏会に出てみない?雪乃なら、絶対に白いドレスが似合う。」

「そ、そんな…メイドである私がそのような場所に出させていただくことなんて身に余ります…。」
「あなたは私よりも背が高くきれいな体をしているのだから着ないともったいない。」

「私にはもったいないありがたいお言葉です。」

「そう…?でも、いつか一緒に行ける日を楽しみにしているよ。」


明日に備え、早めにベッドに入る。

目を閉じると、舞踏会はどんなものだろうか、どんなに素敵な場所なのだろうかと想像が尽きない。人生ではじめての舞踏会。とても華やかな舞踏会。





だけど、現実は違った。このときは思ってもいなかった。この日を境に私の生活が変わってしまうなんて…もう、この家に戻ることができなくなるなんて…