―楓side—

あんな言い方して……失礼だったのかな…。いや、人の心にズカズカと入ってこようとするのが悪いんだ。


私には……人と馴れ馴れしく群れる理由が分からない。お父様はいつも仕事のことばかり、お母様はいつも何かしら理由を作っては家に帰ってこなかった。メイドや執事たちもいつもよそよそしくて家の中は冷たかった。



「…楓。」
「聖…。いいの?私のところへなんか来て。大好きな花月といればいいじゃない。」

「あいつは今手がふさがってるし、あいつ以外にお前と話せるの俺だけだと思って。」


「花月は……本当にいい人なんだね。それに比べて私は悪い子。人の善意にも素直になれなくて傷つけることばかり言っている。きっと花月は家族に愛されて幸せな人生を送ってきたんだろうね。会ってみたいな…花月の家族に。」

「…あいつの家族は……もういない。」
「え……?」

「…あいつの家族は皆殺された。俺たち吸血鬼に。家族も屋敷も失って、こっちの世界にきたんだ。」

「何その空想話。聖も冗談言うようになったのね。大体そんな人生を送ってきたならあんなに笑っていられるわけない。吸血鬼と一緒に暮らせるわけがない。」

「あいつと会った日…あいつの顔には深い絶望しかなかった。ここに連れてきたことだって本当は嫌だったはずだ。こっちの世界に来たって笑うようになるには時間がかかった。あいつは自分の弱いところを人に見せようとしないからきっと無理をしてたはずだ。それでも…あいつは、この屋敷から出ていこうとしたことはなかった。俺たちと向き合っていつも一生懸命に生きていた。」


「……聖は、そういうところに惚れたの?」
「分からねえよ、そんなの。でも…あいつのこと、守ってやりてえんだ。あいつのためならどんなことでもする。」

「なんか聖ってストーカーっぽい。」
「そうかもな……気づけばあいつのこと目で追ってるし側にいたいと思う。」

「なんか花月が気の毒に思えてきた。ねえ聖…私も笑えるようになるかな。花月みたいに強くなれるかな…。」


「まだ焦らなくていいだろ、子どもなんだし。」

「歳なんか関係ないよ。私は…早く大人になりたい。」

「花月みたいじゃなくて、お前はお前でいろ。楓は楓だ。誰かになろうとするんじゃなくて自分自身を生きろ。その方が花月もきっと喜ぶ。」


「うん…。ところで、さっきから異臭がするんだけど、これ何?」
「…これはたぶん花月だ。」
「は…?」