ひだまりと海の間で

「でもね、ななちゃん。わたしは今、約束通り生きてるよ」



奇跡は起きた。


だからこうしてわたしは長い間お世話になった病院を出て、隣町でこうして外の世界を歩けているのだ。


心臓をくれた誰かのぶんも合わせてふたりぶんの人生を、歩み始めることが出来たのだ。


実際には、拒絶反応も今は落ち着いているけれど多少なりともあったし、退院までもながかった。


外出にはマスクも必須だし、毎食後には7種類の薬を飲まなきゃいけない。


ひとりで長時間外出をすることは許されていないし、病院の中で過ごした6年間の差は計り知れない。


それでも、時間がかかったとしても「当たり前の生活」がこの先できることに、奇跡が起きたと言うほかないのだ。


「ななちゃんが奇跡を起こしてくれたんだって思ってるよ」


ショルダーバッグからピンクの桜柄の封筒を取り出して両手で空に掲げる。


「見えてるかな。これ、ちゃんと届けるからね。ちゃんと見守っててね!」


この町の夕焼けに染まる空とそれを反射させる海は、彼女が好きだと言っていたものだから。


今もきっと見ている。