ミーンミーンと丘の方から聞こえてくるのは、蝉の声。


海の方からはザザーン、ザザーンと波が打ちよせる音。


家と家の間を、さぁっと涼しい風が抜ける。


日が傾きかけた海辺の町を、人一倍ゆっくりと歩く。


わたしにとっては、夢のような時間だ。


肩からかけたショルダーバッグの中には、スマートフォンにハンカチ、それから何回分かをまとめたお薬ケースに、ピンクの桜柄の封筒。


毎日夕方の限られた時間のあいだ、わたしはこの町を散歩する。