まぁ、だからといってどうということはないのだが。

 俺の感想を聞き、その後無事に雅也の感想も聞き出せたらしく、満足した佐倉さんは、俺たちに軽く手を振ってから女子の輪の中に戻っていった。

 その姿がなぜだかあの夢の女の子と重なった。

 いつも夢の中で一緒に遊ぶ女の子。

 その女の子は小学生くらいの幼い子で。

 顔も名前も声も、何もわからない女の子と2人きりで、俺はいつも楽しそうに遊んでいる。

 そして夢の最後で必ずその子と別れる。

 寂しそうに手を振っている時や、はたまた引き裂かれるように別れる時。

 別れ方はその時によるが、俺たちが別れることはいつも決まっている。

 今目の前の佐倉さんは笑顔で手を振っていたのに、どうしてあの夢の女の子と重なったのだろう。

 もう女子の輪の中に戻った佐倉さんを無心で見つめる。

 ──カシャン。

 教室に響いた小さな音。

 それが俺にだけは大きな音に聞こえた気がして、1人大袈裟に反応してしまった。

 今の音の正体に、俺は自分の足元を見て気がついた。

「……洗ってくる」

 1つため息をついてから重い腰を持ち上げ、落とした箸を片手に廊下へ出た。

 その時、佐倉さんが俺を見ていることに気づかなかった。