「待って!」

 眼下の踝まである長いスカートがふわりと揺れ、やがて止まる。

 ほんの数秒。

 彼女はゆっくりと俺の方を見た。

 少し息を切らした俺と、戸惑いを隠せない彼女の目が合う。

「ごめん、俺のこと、こうちゃんって呼んでくれたのが気になって。
俺とどこかで会ったことあるの?」

 これでも言葉を選んだつもりだったのだが、目の前の彼女の顔はどんどん曇っていく。

「ごめんなさい、人違いでした」

 校門に向かって歩く人々が俺たちを避けていく。

 真ん中に取り残された2人。

 一見ロマンチックな告白シーンにも見えそうだが、現実はそうもいかず、まるで別れを迎える男女のように──

 彼女の頬に涙が伝った。

「え、いや、その違うの。ご、ごめ──」

 自分の涙に驚き、慌てて謝る彼女。

 これでは俺が彼女を泣かせているようにしか見えない。

 いや、実際に泣いている原因は俺なのだが。