今度はできる限り優しく声をかけ、俺はその場からゆっくり立ち去った。

「何かあったのか?」

「いや、何も……」

 そう言って後ろを見たが、もう彼女の姿は見えなかった。

『こうちゃん』

 小学生の頃呼ばれていた俺のあだ名。

 でもさっきその名を呼んでいた人を俺は知らない。

 だからなのか、俺を「こうちゃん」と呼んだ彼女の声と顔が頭に焼き付いて忘れられなかった。