「あ〜!さっきの!」
「ん?なんや、春輝知り合いなん?」
「まぁ、ちょっとな!」
そう言って、ニカッと笑ってみせる彼。
笑ったときに見える白い八重歯は、ちょっぴりイタズラっ子な少年のようで。
自然と胸が鳴る。
「なんやそれ〜。なんかずるいなぁ〜。まぁ、ええわ。で、何かあっきー言いかけてたけど、どしたん?」
「え…あ、いや…その……」
私は、どうしたいの…?
もう、走ることなんてできないのに。
何にそんなに迷って、躊躇してる?
いや、本当は分かってる…。
自分が一番分かってた。
答えはとっくに出てるのにそれに気付かないふりをして。
自分の気持ちにずっと嘘をつき続けて…。
苦しくて苦しくて。
だから、忘れたかった。
楽になりたかった。
でも、彼の走りを見た時に…
今まで押し込んできた自分の気持ちが、
何か堰を切ったとように溢れ出た。
『もう一度走りたい』
答えは簡単で…。
でも、私にとっては考えられないほど…
自分の中では抱えきれないほど…
大きな大きなことで。
それでも、もう一度気づけた。
気づかせてくれた。
