ようやく すこし涼しくなった 9月の半ば。

私は 博幸と一緒に 弁護士を訪ねた。


想像よりも ずっと若い 弁護士。

多分 博幸と同じ年頃の 明るい男性。


「すみません。今日は 家内も一緒に 話しを聞かせて下さい。」

博幸は 私を ” 家内 ” と呼んだ。

「私も 一度 奥様に お会いしたかったんです。」

弁護士は 明るい笑顔で 私を ” 奥様 ” と言った。

驚いて 博幸の顔を見ると 優しく 微笑んでくれる。



「離婚の相談を お受けして。どうしても離婚を希望されるのなら そのお手伝いも できますが。相手方の要望は 戸籍だけなんですよ。お二人が 入籍できないことは 我慢できないですか?」

弁護士の言葉に 私は博幸の顔を見る。

「正直言って 俺は もうわからなくなってきていて。どうすることが 一番いいのか。実際 今も 一緒に暮らしているわけだし。」

博幸は そう言って 苦笑した。

私も 曖昧な笑顔で頷く。


「ただ 家内は まだ若いし 初婚なので。親の意向もあるし。ちゃんとしてやりたいって思うんですけど。」

博幸は 私の為に 動いている。

私に 世間並みの 結婚をさせるために。


「あの。私… 自分が 彼の家庭を壊したから。私だけ 何の罰もなく 幸せになるなんて…」


私は 捨てられる覚悟で 博幸に 付いて来た。

このまま 一緒にいることを

博幸が 決めているのなら。

それだけでいいと 心から 思った。