会社の 少し手前で タクシーを降りて。

「雪穂 先に行って。俺 少し ずらして行くから。」

博幸は そう言って コンビニを指す。


私達が 隠さなければいけないのは

博幸の家族だけじゃない。

職場の人にも 知らせることは できない。


「うん。わかった。」

無理に笑って 歩き出す私に

「明日の帰り 雪穂の部屋に 行くから。」

博幸は そっと私の腕を引いて

耳元に 小声で 囁いた。


じっと 博幸の目を見て

しっかりと頷いて 歩き出す私。



一夜限りじゃなかったことが 嬉しくて。

自分が 泥沼に 足を入れてしまったことに

まったく 気付かなかった。