本田先生から数時間前に亜妃の意識が無事戻り、
受け答えもしっかりしているとの連絡をもらう。
すぐに転院の準備を…と言うと、少し
言いにくそうに告げられる。

本田「実は…本人が転院しなくていい、
退院させて欲しいと言っていまして…。
退院できない旨はお伝えしたのですが。」

亜妃らしくて、思わず苦笑してしまう。

…まぁ、今回の転院拒否は単なる病院が嫌いって
だけじゃないはず。俺と顔をあわせたくない
ってのが含まれている事は容易に想像がつく。

それでも。

このままになんてさせてたまるか。
言葉を選びながらどうにかうちに転院
させるように話を持っていく。

「彼女は病院が苦手でして…この歳になるまで
まともに病院にかかった事が無かったらしいんです。
家庭の事情もあるようでして…諸々の事情を
踏まえて、うちで責任を持ちますので転院の
手続きをしていただいて良ろしいですか?
もし、本人に説明が必要であれば今日にでも
出向いて、私から伝えますが…」

本田「そうしてもらった方がご本人も
納得するかもしれませんね…」

よしよし。上手く転院の方向には持っていけた。
あとは亜妃次第だけど…まぁ亜妃は俺が
何としても連れて行くからどうにかなるはず。

「分かりました。では本日の夕方、伺わせて
いただきます。」

本田「よろしくお願い致します。」

電話を終え、受話器を置くと同時に安堵感から
思わずため息漏れる。

正直、きちんと会って話さなければと思っていた。
あんなメモだけ残して家を出ていかれた
俺の気持ちも考えろっての…。