山さんは俺の上司に当たる人だ。


 専門学校を出てからずっとこの人の元で働いている。


 山さんは俺より20歳年上の近所のお兄ちゃんだった。


 山さんのお父さんがやっていたこのお店に小さい頃から通っていて、自分もいつかこんな風に店を出したいと思っていた。


 小さい頃もよく遊んで貰ったし、今もずっとお世話になっている。


「そっか、美舟ちゃんって言うんだね! どうしたの?? 彼氏と別れたりしたの?」


「違いますけど!??! どうしてそんなにデリカシーがないんですか? 人の事情に土足で踏み込んで来ないでください。こっちにも色々あるんです」


 美舟と話してみてすぐに気付いた。


 なんだこの気の強い女は。


 プライドが高そうなお嬢様って感じだな。


 いきなりそんな怒んなくても良いじゃん・・・。


「ごめんね、確かにデリカシーなかったね。ごめんなさい。でも、何も食べてないんでしょ? 俺もお腹空いてるから、一緒にご飯食べませんか?」


「別にいらないです!! 他人に借りを作ってまで何かして貰おうと思ってませんから」


「でも助けて欲しそうな顔してたよ」


「え・・・・・・?」


 道で見かけた時、確かに美舟は泣きそうな顔をしていた。


 どういう事情かはわからないけど、カバンすら持っていない。


 まるでどこかから飛び出して来たような格好だ。