正午を過ぎた頃、早めに昼食を取って鞄に書類を詰め込んだ。

そしてこれから担当の店舗に回ろうと、ホワイトボードに書かれた自分の名前に、外出と記入する。
課長に外出することを伝えて営業部を出ると、見知った顔が前から歩いてくる。

「おぉ、大橋。久しぶりだな。」
「海原さん、お久しぶりです。」

そこにいたのは海原さん、以前まではこの本社で同じ営業部に所属していた、俺の元教育係で3つ上の先輩だった。
今は関西支社に異動して、デパ地下のSVをしていると聞いていた。

「今日はどうしたんですか、わざわざ本社に来られるなんて。」
「ちょっと会議に呼ばれてな。どうも俺、今度は福岡に異動させられるみたいでさ。ほら、次出店する満坂のSVにって。」
「それじゃあ、大阪のSVはどうなるんですか。誰か別の人に?」
「たぶん、そうだろうな。まだ誰にするかは決まってないみたいだが、SV経験のある奴だろうし、本社から誰か呼ばれるんじゃないか。」
「…なるほど。」

「新しく出店するならその辺りを分かってる奴が良いってことで俺になったんだが。関西もギリギリの予算越えなのに俺で良いのか、まったく。」

海原さんは頭を掻きながら、スマホで時間を確認している。

「そういえば大橋、外出の予定だったんじゃないのか。」
「あ、はい。今から店舗を回る予定で。」
「なら、早く行った方が良いんじゃないか。関東の店舗を回るなら、移動距離結構あるだろ。」
「そうします。また、飲みに行きましょう。」

では、と海原さんの隣を通り過ぎた。
その直後、あ、と思い出したように海原さんに呼び止められた。

「悪い。一つだけ聞きたいことあったわ。」

歩き出した足を止めて海原さんを振り返った、そのとき。


「あの幼馴染、何で大阪で働いてるんだ?」


その言葉に、今日予定していた内容なんて、どうでも良くなってしまった。

「海原さん、それどういう…」
「あ、悪い。さすがに話しすぎた。ほら、お前もさっさと行け。」

いや、でも、と俺の背中を押してくる海原さんに抵抗した。

彼女のことを、海原さんは知っている…?それなら、聞かなければ。
彼女が今、どこにいるのかを。

背中を押していた手は退けられ、海原さんは営業部に向かっていく。

そして途中で振り返ると、廊下に響く大きな声で、「今日最終の新幹線だから、終わったら連絡してこい。」と叫んでいた。

彼女に繋がる一手を得られる気がして、その日の外回りはいつも以上に張り切っていたと思う。