語気に怒りが含まれていて、いつもの優しい蒼じゃない。
そうなることくらい、分かってたはずなのに。

「別に、蒼に言うほどの理由じゃないよ。別の仕事してみるのもありかな、って。
だから―――」
「だから、幼馴染の俺にも言わなかった、って?」
「…そう、だよ。私が何しようが、蒼には関係ないでしょ。」

その言葉に、私を遮っていた蒼の手が離れ、静かに中に歩いて行く。

「葵にとって、幼馴染の俺は大事じゃなかったってことか。」

小さく、何とか聞き取れるほどの呟きだった。

幼馴染…?大事…?それを守るために、私がどれだけ傷ついたか知らないで…

「なに、それ。」

もうダメだ。最後まで良い幼馴染では、いられそうにない。

部屋の中まで静かに歩いて、小さな紙袋を手に取った。

「大切な関係だと思ってたのは、俺だけだったのか。」

私の方を向いて、そう言った彼に
―――その紙袋を投げつけた。

「その関係を壊したのは、お互いだから。」
「…おい、葵!」

蒼の声も聞かず、バッグを手に取り玄関へ走った。
慌てて追いかけてきた蒼に、ただ一言。

「さよなら」

精いっぱいの笑顔で、蒼に別れを告げた。
丁度エレベーターが7階で止まっていたから、急いで閉ボタンを押す。
エレベーターが動き出す直前、蒼が追いかけてきているのが見えたけれど。

もう戻れない。

大通りでタクシーを拾って、そのまま、空港へ向かった。

最後はあっけないほど、ずっと大事にしてきた幼馴染という関係は、いとも簡単に
―――壊れてしまった。