「蒼は、私のことをどう思ってるの。」

これで、最後にしよう。
もう期待はしない、だから、最後に本当のことを聞かせて。

「私のこと、好きだから、そんなこと言うの…?」

見上げた蒼の表情は、暗闇に慣れてきた目で大分見えるようになっていた。

私の言葉に、蒼の顔はどんどん、険しくなる。

あぁ、言ってしまった。ダメな返事になることは、その顔で読み取れた。

20年以上、蒼のそばにいたからこそ分かる。これから蒼が言う言葉は…


「好きだよ、幼馴染として。大切に思ってるからこそ、傷ついてほしくない。」

蒼が私との間に引く一線、それを明確にする言葉だった。


「…分かった。」

もう、ダメだった。
蒼のそばにはいられない。

「あ、葵!?」

玄関のドアを開いて蒼の身体を押し出した。
驚いた拍子に態勢が崩れ、その場に尻もちをついている蒼に、私も、蒼が求める言葉を返す。

「蒼、私も、大切な幼馴染のことが、好きだったよ。」
「葵!」

ガチャン、という大きな音を立ててドアが閉まった。

ドアを何度もたたく音が響くけれど、私が応えるつもりがないと分かったのか、フロアに足音が響いて遠ざかっていく。

「…っ。そ、うの、バカ。」

玄関の壁にもたれ、崩れ落ちた私の頬に止めらない涙が伝う。
蒼は、いつだって、私に変わらない気持ちを伝えていたじゃない。

5年前から、ずっと。

彼の気持ちを理解できなかったんじゃない、理解したくなかったんだ。

止まらない涙が流れ落ちていくごとに、彼への想いも一緒に捨てられたら良いのに。それが出来ていたらここまで悩まなかった。

けれど。

想いはまだ捨てられないけれど、伝う涙に諦める決心を―――