夜空に、光の大輪が咲く。秋の闇夜を彩るそれは、何秒かは映えるけれど、たちまち消えてしまう。

私も、そうなのだろうか。
この熱い想いも、すぐにしぼんでしまうのだろうか。
それこそ、友達が言うように、一瞬で。

ちら、と横を一瞥すれば、自分と同じく花火に目を奪われる君の姿が目に入る。

「....綺麗、だよね」

「ん、そうだね」

ねぇ、どうして目を合わせてくれないの。出会った頃の破天荒さはどこにいったの、私を変えてくれたのは君なの。好きにさせておいて、、どうしてっ、。私を変えてくれた君が

「....好き、」


どん、と一際大きな花火が打ち上がる。周りの歓声も相まって、この小さな告白が君の元へは届くことはないのだろう。
ううん、ほんとは届いてほしかった。
先程の大振りな花火がラストだったのか、人混みからは「すごかったね」などの感想が聞こえてくる。

「そろそろ終わりみたいだな」

「うん、そうみたいだね。」

「帰ろっか」

「うん、」
嘘。本当は帰りたくなんてない。ずっとこのままでいたい。人混みだからと繋いだ手も、せっかくのお祭りだからと取ってもらった射的のぬいぐるみも、今だけ許されているこの距離感も、全部、このまま、終わらなければいいのに。

「今日は楽しかった」

ほら、また期待するようなこといって。

「..私もだよ。ありがとね。お金は返すからっ。」

「気にしなくていいの」

「いいの、」

奢るよ、と言ってくれた君のことを思い出して、また、胸が傷んだ。ああ、他人行儀。まだ、私は、君の特別にはなれないのかな。
「それじゃ、」

君の浴衣の裾が揺れる。行ってしまう、もう次にいつ会えるか分からない彼が、行ってしまう。

ああ、好きだ。君のことがどうしようもないくらい、好きだ。









「_____蒼都、!」

君が、蒼都と呼ばれた君が、振り返る。初めて呼んだ、君の下の名前。

今までずっと苗字で呼んでいた。呼ぶタイミングを失ってしまったから。

浅野、蒼都。
平凡そうな、でも誰よりも意識してしまう名前。そんなあの人が、私は、どうしようもないくらい、私は、




「ず、ずっと、言えなかったんだよね、私、」
声を張り上げて、君に呼びかける。周りからの目線を気にする生まれつきの癖なんて、とっくのとうに君から直された。

「私、あなたのことが ____ 」


花火の音が、蘇った気がした。むせ返るようなあの夏の匂い。


彼は1人、こちらに微笑んでいた。