第閑話休題「三色菫」

食器などの片付けが済み、客も来ない様子だったので休憩をとることにした。
棚から赤いマグを取り出し、中に牛乳を入れる。また、贅沢にもはちみつをたっぷり入れて電子レンジに入れた。鍋で牛乳を温めないのは、洗い物をまた増やすようなことはしたくなかったからだ。
1分半温めて取り出し、湯気の立つハニーミルクをカウンターに置く。自分も客席に座って、マグを包むように持って息を数回吹きかけてから口を付ける。
熱い。
もう少し待つことにした。
1人だけの時間。誰にも邪魔されない一人ぼっちの時間。一人ぼっちは寂しい。だけど、必要な時間だ。人間は、自分の存在する環境に、他者がいないと成り立たない生き物だと思う。でも、どこまで干渉し合えばいいのだろう。
絡みすぎれば窒息するし、孤独になってしまえば支えがなくてぽっきりと折れてしまうだろう。程よい加減とはどのくらいの物だろうか。
そうこうしていると、ハニーミルクの方は程よい温度になっていた。安心して舌鼓を打てる。うん、このくらいが丁度いい。熱すぎず冷め過ぎず、体をほっとさせてくれる。この世にハチミツと牛乳を生み出したものに感謝しよう。あと、流通させてくれた人にも。ありがたや、ありがたやー。などと独り言ちる。
そういえば、はちみつというのは「甘い」の代名詞のように扱われるし、実際甘いのだけど、はちみつを直接食べると、甘い中に少し苦みを感じる。甘いのに苦いとはなんだか不思議なものだ。
まあ、ハニーミルクはその苦みもうまみに感じるからよいのだけど。
半分ほどハニーミルクを堪能して、そっとテーブルに腕を乗せて、頭を乗せる。ほかほかしてきたからか少し眠い。このまま寝てしまおうか。いや、だめだよね。分かっておりますとも。分かってますから、今は少し休憩させてくださいな。
おっと。
少し眠っていたのか、記憶が途切れている。
おまけにハニーミルクはすっかり冷めていた。
一気にハニーミルクを喉に流し込むと、マグを置いて手を合わせる。そして席を立ってマグを洗い、乾燥棚に置く。赤いマグは、自分がまるでここを彩るインテリアかの様に堂々と鎮座している。生意気だ。ま、いいか。それもありだろう。そういうこともあるのだ。
ふとドアの方を見る。ドアは木製で、窓がない。ちなみにこの店に窓はない。ないけれど、ここは、喫茶店、「窓花(まどか)」である。さて、もうすぐ来るだろうお客様のために、お迎えの準備をしよう。ドアが開いたらこの言葉から。
「いらっしゃいませ」