♯ 光side

カシャン!!

ガサガサと音をたててやっと机の中からスマートフォンを探りあてたが、うまく握りきれず落としてしまった。それを慌てて拾おうとするが手が震え二度つかみそこねた。

「…悪い、邪魔して。」
やっと一言振り絞って後ろも振り返らず教室を出た。二人を直視することなんてできなかった。

階段を勢いよく駆け下り、下駄箱の陰まで行くと足の力が抜けてしまいその場にしゃがみ込む。

「やはり後藤さんは達也を選んだんじゃな。」つぶやく。言葉にするとさっき見てしまった二人のキスシーンが現実なのだと実感した。

選んだも何も、俺は告白すらしていないのだから。同じ土俵に上がる勇気が無かったのだ。

頭を抱えて目を閉じる。どんなに固く目を閉じても二人の姿が目のうらから離れない。
キスしていた姿…
達也に抱きしめられている後藤さんの姿…

「どうした?しんどいんか?」
教務室から出てきた監督が心配して声をかけてくれた。
俺は頭をブンブンと振り立ち上がり「大丈夫です。すみません。出発遅れて。」唇をキュッと結んでそう言い、玄関前のロータリーに停まっていた野球部バスに乗り込んだ。

練習をする球場に向かうバスの中でも胸の痛みはおさまらなかった。でも、後藤さんの笑顔を守るためにも二人を応援するしかないんだと自分に言い聞かせる。後藤さんが幸せであればそれでいいのだと…。