京都・祇園

俺が生きる街


18才の時、口うるさいお袋と喧嘩して家を飛び出した。


地元を離れ、俺はきらめくネオンの夜の街へ足を踏み入れた。


祇園で一番名の知れているラウンジで、新人のホストとして働き出した俺は、

入店数ヵ月にしてナンバー入り、
10ヵ月目にはNo.1の座を手に入れた。

それから3年。

今この街で、俺より稼げる男はいない。

女にも金にも不自由しなかった。
この街では何もかもが自由なんだ。

…だけど
俺は満たされない。
何かが足りない。
…なんなんだ?


俺はその何かを求めた。
でも…どこに行っても見つからないんだ。
俺に足りない物は一体…?

完全に行き詰まった俺の足は、自然とある所へ向かっていた。

あの時からもうすぐ4年。


―懐かしい匂いがした。


「…えっ?!お兄ちゃん!!帰って来たの?!」


ずいぶんと大人びて中学の制服を来た妹が、目を真ん丸くして驚いている。


「…別に…」

俺は部屋を見渡した。


「お母さん、まだ仕事だよ…?」

「…関係ねぇし」


4年振りの自分の部屋。

「お母さん、ずっと待ってたんだよ…お兄ちゃんのこと」


夕暮れに赤く染まる俺の部屋は、昔と何にも変わらない。


「お兄ちゃん、これ…お母さんがいつも焼いてくれるお芋。
食べなよ…
お兄ちゃんが大好きだったから…
お母さん、毎年畑でできたやつを直ぐに焼いてるんだよ」


俺の心のように、すっかり冷めてしまった芋…

俺は一口かじってみた。


…ちくしょー


「うめぇじゃねぇかよ」

口の中に甘く広がるお袋の優しさ。


小さな頃の思い出とお袋の笑う顔が、俺の目頭を熱くする。


夕陽に照らされながら、窓の外で揺れるコスモス畑がぼやけて見える。


「ただいまー」


その時、ずっと求めていた明るい声がした…