「おい」

突然の声に驚いて顔を上げると、大好きな先輩が目の前に立っていた。

「セッ…センパイ!なんで!?」

「なんでじゃねーよ、遅せーよ」

見つからないようにコソコソと校門を出たのに、そこに先輩がいた。

あたしの大好きな人。1年間片想い中の人。

陸上部で一緒にハイジャンの練習をするうちに、

いつのまにかあたしの心の中に先輩が棲み始めた。


無愛想で無口だし、俺様だしすっごく自己中。

…だけど知ってる。

本当は正義感が強くて優しくて、
笑った顔が子供みたいでやんちゃに輝いている事。

あたしはそんな先輩に、今から30分前

…告白した。


「なに逃げてんだよ。ほら、ケータイ」

先輩が右手を出した。

「え!?…なに?」

オロオロするあたしの手から、半ば強引にケータイが奪われた。

本当は告白するつもりなんてなかったのに。


ハイジャンしてる先輩が素敵すぎて、

気付いたら自分の思いを口にしていた。

でも、先輩の驚く顔に我にかえって、慌て逃げ出したんだ。


先輩の手の中であたしのケータイが、

ピンクのハートのストラップをユラユラと嬉しそうに揺らしている。


先輩の
軽くパーマの当たった茶色く明るい髪が好き。

学ランの前を開けて、中から覗く白いシャツが好き。

目元と口元のやけにセクシーなホクロが好き。

そして、意思の強い瞳が大好き。

その全てに見とれてしまう…

「はい」

ウットリするあたしの手の中にケータイが返ってきた。

「帰るぞ」

そのまま先輩のおっきくて男らしい手が伸びて、
あたしの頭をクシャクシャッとした。

ゆっくりと歩き出す背中…

ケータイを開くと
「メモリNO. 00」

“生まれて初めての彼氏のため”

残しておいた電話帳の0番が埋まっていた。


「…待って!センパイ!」



「遅せーよ」


ぶっきらぼうに手を差し出す彼。


センパイ…
顔が赤いよ…?


あたしはその優しい手を繋いだ。


「大好き!」