警視庁に着いたのは夕方少し前だった。

大河パパは別件でとある内閣関係者との話し合いが有るらしく、少し遅れるとの事で、堅苦しい雰囲気の11階会議室には私と大河と久本さん、そして警察庁からの出向組エリートが2人。


いつも大河とタッグを組んでいる人達だから、この時間帯に会いたいと言われた理由が何となく想像出来てそうだった。

だから心なしか❝いつもより❞は雰囲気が穏やかなのだと思う。


それでも此処は警視庁内部と云う場所柄、上野の喫茶店ジャランで珈琲を飲んでる様なまったりムードには成れないけれど。


「皆さん忙しいのに突然呼び出してすみません。」


「いやいや、大河くんからの電話は大歓迎だよ。」




「単刀直入に言いますね。……まだ犯人の目星は付いてないです。」

「でも、あの紙くず。」



「あれが何なのかは分かりました。」




「何なのか…?何かを意味してたって事か?」


「そうです、あれは多分❝桜❞を意味してたんじゃないか、という僕の見立てです。」

「桜?──でも桜と言えば春ですよ。犯行時期は定まっていませんので、必ずしも桜に関係するとは…」



「僕もそれは分かってます。」

髪の毛をワックスでカチカチに固めた、見た感じ金融ヤクザみたいな雰囲気のエリート警察庁組が、不思議そうに問いかけた言葉に、ハッキリと忖度なしで答える大河の雰囲気に幼馴染ながら圧倒されそうだった。


「でも、桜=春、とは限らない。し、それが犯行時期を差してるとも限らない。」


「この話しには続きがあります。」




「例えば、誰かを探し求めてるのだとしたら?」


「例えば、桜並木の下で犯人はとても好みの女の子を見つけた。でもその時は声を掛けれずにいた。時が過ぎ、後悔が執着になった。」

「似たような女の子、その女の子と仲良しそうな男の子を誘拐し、色々と質問をする。でもその子達は犯人が見かけた子では無い。」


「だから『お前らの娘・息子は違うかった。俺が探してるのは…』という意味を込めて、わざわざリスクを犯しながらもランドセルを返し、給食袋の中に桜の花びらを捩った紙くずを入れる。」




「──これなら」


「──……これなら、犯人が何故単発の誘拐では無いのか、被害者の家柄やランドセルの色しか共通点が無いのか、ハッキリと説明が着くと思うんです。」


車内で、大河が自分の頭を整理するがてら見立てを話してくれていたから、目の前の大男3人のように目を見開いて驚く事は無い。

……でも、仮に私もこの話しを今初めて聞いていたとしたら……。


こうやって驚いてしまうのも無理が無い、と本心で思えるだろう。