練馬に着いたのは14時前だった。
向こうのご家族に伝えてある時間通りだったから、すんなりとお家に入れて貰える。
職業や学歴で人を差別する気は無い。私にはそんな事を出来るだけの能力も無いし。
でも資料通りお父様が大企業に勤めていらっしゃるだけあって、奥さんも身なりがキレイだし家の中もキチンとしていた。
それなのに家に活気が感じられないのは──
多分、テレビ台に沢山飾られてある18年前に失踪した美咲ちゃんの写真を見て検討が着く。
愛した我が子がある日突然居なくなった、というのが大きな原因だろう。
「遠くまでご苦労様です。今、美咲の妹は塾に行ってますので、ゆっくりしていって下さいね。」
「あ、美咲さんに妹がいらっしゃるんですか。」
「はい。……主人と相談を重ねた結果、このままじゃダメだと美咲が居なくなって五年後に出来た子なんです。」
寂しそうに、でもどこか強く微笑む姿を見て女の強さを再確認した。忘れたワケではないし、忘れられるワケもない。でも前に進まなきゃいけない、と。そんな所だろう。
「今は13歳なんで、あっという間に私達の記憶の中の美咲より大きくなってしまいましたけど‥」
涙が溢れ出そうになっているのを必死にこらえている姿を見て胸がギュッと締め付けられそうになった。
隣に居る大河がどんな気持ちで、前に座る母親を見いるのかは分からない。でも、サイコ染みた事を言わない所を見る限り、彼は彼なりに必死に被害者遺族の気持ちに寄り添おうとしているのだろう。
「……大変聞きにくい事なのですが。」
「神埼大河が来る、と警察の方から聞いた時点である程度覚悟は出来ています。思い出したく無い事までも思い出す覚悟、が。」
「──正直、最初に警察の方から連絡を頂いた時は怒りさえ覚えました。」
「どうしてあの時に、そこまで必死に動いてくれなかったの。探してくれなかったの、って。」
「女の子1人居なくなるだけでも、それは立派な事件なのにやっぱり何人、何十人も居なくならない限りは、こうやって凄い人の協力も得られないのかなって。」
「……だけど、私の家族が一番最初の被害者だとしたら。」
「美咲が居なくなったあの日の記憶が何かの役に立つのなら。」
「美咲を愛し続ける、彼女の生存を信じ続ける母として、覚悟を決めて向き合わなきゃ、そう思ったんです。」
ゆっくりと、だけど力強くそう話しながら彼女がテーブルの上に置いたのは美咲ちゃんが使っていたと思われる給食袋だった。
その中から出てくるのは私達を悩ませる何かの花びらの様な紙くず。
確かに、他の被害者同様その紙くずは5枚有った。
