上野駅から歩いて数分の距離に有る喫茶店ジャランに入った私達は二人とも、メニューを見る前にホット珈琲を注文した。

ジャランはかなり古くからある喫茶店で、このご時世でも煙草がバンバン吸えるんだから有り難いものだ。


二人して煙草に火を付けて、オーダーが通ったであろう珈琲を待った。


「……はあ、最近ダメだなあ。俺も。」


「何よ、いきなり。」



「……いや?ただ、有力な情報は何も掴めねえし、マジでこれといって犯人の目星も付かない。」

「せめて動機くらい分かればって思ってたけど、ここまで共通点が無けりゃ、その動機すら予想付かねてえよ。」


「──たしかに、共通点って無いもんね。強いて言うならご家族のお父さんが良い所務めで母親は少し派手目な美人ってところくらい?」



「ん。そんくらいだわな。」



「……東京都内全域のペドフェリアを虱潰しに当たれって言っても不可能だし。今回ばかりは難しい事件を受けたよね。」


「まあな。──はあ、俺の探偵人生もここまでかな。」


珍しく、そんな弱気な事を言いながら二席隣のおじいちゃん達を羨ましく見つめる我が幼馴染。

普段のスーパーポジティブさなんて垣間見れないほど、落ち込んでいるみたいだった。



「あのさ、大河。」


「ん?」



「この後、気晴し付き合ってくれない?」


「気晴しィ?お前に何の気を晴らす必要があるんだよ。」


「だから、あれよ。あれ。その〜私も色々あんの。勿論事件の事も気になるわよ。でもそれ以外に…」


前に良い感じの関係性で、何度かご飯に行った平沢君からの連絡が鳴り止まないんだよね、と言いたいけど。

そんな事をこの場で言った暁には、せっかくの美味しい珈琲がまずくなってしまう。



「……はあ?」


「だから、ほら。女って色々あるじゃん。」

「生理前で何も上手い事いかない時とかさ。私って、今まさにそれなワケ。」


「ああ、そういう事。」

「何?どこか行きたいって事?」



「うん。……温泉でも行きたい、かな。」