「あのさ。」
「うん?」
「ロシアのスパイ、では無いのよ。本当に私はロシアと何の関係も無いし。でも別の理由で東京に居たのは事実だよ。」
平沢達也と必要以上に近付かなくて良い様に今日は店内でのカラオケ禁止。
お互い声のトーンは大き過ぎる事も無いから、他の人には聞こえていない、と本人はおもってるんだろうけど──残念ながら私の首元には小さなマイクが仕込まれているし、他の刑事達の耳には会話の全てが筒抜けなのだ。
勿論、大河にも。
「別の理由であれだけ仕事休んでたって事かな?」
浴びる様にビールを一気に流し込んでから、高そうな小皿に入ったピーナッツを食べた平沢達也。
元々顔もスタイルも悪くは無いと思ってたけど……やっぱり、こいつがサイコじゃなくて私の側に大河が居なかったら選択肢としては有りだったかもしれない。
まあ、全てを知って……
私が大河の幼馴染で在る以上は、結局の所ひっつく事は無かったのかもしれないけどさ。
「っていうか、もう駆引きとか面倒臭くなっちやた。私、別にスパイでも刑事でも無いんだし。」
「平沢君、あなた私が昔誘拐された事、知ってるよね?というか──もっと言うなれば今回の連続誘拐事件に何らかの関与、してるんでしょ?」
あくまでも冷静に……
というか、冷静だ。冷静でしか無い。
きっと久本さんも三島さんも、こんな核心突いた事を聞きながら平然とした顔でウイスキーの水割りと飲み、隣のサイコにつられたかの様にピーナッツを二粒、口に放り込む私を❝さすが、神埼大河の幼馴染❞として苦笑いで見ているに違いない。
そんな私を見て、平沢達也本人も駆引きじみたマスクを被る事に疲れたのだろう。
ニヤリと気持ち悪い笑みを浮かべてから、ユイカさんにビールのおかわりを頼んでから私の髪を撫でた。
「……知ってるよ、全部ね。」
