……先に息子の達也さえ抑えてしまえば、子どもを何処か別の場所に移されたり…という心配は少なくなるだろう。
問題はどうやって引っ張るか、だ。
達也が私の事を、自分の父親である平沢健一に何も伝えていないのは私が最後の切り札であるということ。そうならば尚更、いきなり令状で引っ張るのは本末転倒だ。
家にでも乗り込んでいけば、それこそ慌てふためいた平澤健一が何か動きを取るに違いない。……其処を現行犯で抑えれる可能性が低いのは、やっぱり彼が10年越しで証拠ひとつ残さずに犯行を続けてきた事に対する警察が抱く恐怖だろう。
「……私が平澤達也にアポを取るわ。どこかで会いましょう、少し話しがしたい。相談に乗ってほしい、みたいな感じで。」
「………。」
久本さんや三島さんは、私のこの誘いにとても喜んでいるに違いない。ただ、大河は…。
そりゃあ心配で仕方ないだろう。
「恋愛感情にしろ、切り札への利用心にしろ、必ず平沢達也は会いに来ますもんね。そこで直接聞いてみるのが一番良いかもしれない。」
「親子で何かしら揉めているのならば、絶対にもったいぶりながらも自分の父親がしている事を話そうとするはずですしね。」
「ああ。あくまでも普通を装うのならば、それこそ歌舞伎町とか池袋辺りのバーに誘い込むのが良いだろうな。ちょっと飲みたいんだ、ってな位に。」
「有りですね。それなら我々もあくまでバーテンダーや他の客としてその場に居れるし……」
「それなら、大河。歌舞伎の花道通りに有るオカマバーのミアンは?よく2人で行ってたでしょ。」
「ああ…あそこなら捜査に協力してくれるだろうな。」
ママは気立ての良いおばちゃん…というより、おっさん。でも大河の大ファンで大河が大きな事件を解決した際には大阪の事務所にビールを1ケース送ってくれるくらい、熱心に応援してくれている。
きっとあの店ならある程度事情を説明したら、直ぐに店を開けてくれるだろう。
「オカマバーに誘われたら、確かに平沢達也は油断するだろうなあ。」
お堅い顔で、高いスーツを着て、威圧感丸出しの大河パパが真顔で❝オカマバー❞なんていうものだから、三島さんが半笑いになっている。
でも我ながら、ミアンで会うと云うのは本当に最高な案だ。何も怪しく無いし、まさか警察が女装しているキャストだとは、平沢達也も思わないだろう。
ただ単にストレスの溜まった私が平沢を誘ったら、たまたま彼が東京に居て、それなら私の行きつけのオカマバーで……っていう流れは、誰から見ても捜査には思えない。
少し馬鹿げている様にも思えるけれど、案外成功しそうなこの作戦は、誰も異議を唱えずにミアンとの話し次第で4日後の土曜日に決行される事になった。
