「つまり、平沢健一が自分の患者達に子供を誘拐させていた、と云う事です。」

「言うなれば❝代理誘拐❞ですよね。」



「平沢について口を割った患者は、今は既に精神疾患を克服し一般社会で生活している者や、月に一回程度の通院を義務付けられている者達でした。」

「逆に週に何回も通院している人達は一切、頑なに口を開こうとしませんでしたよね?」



「それって不思議じゃないですか?だって彼らの中には統合失調症も居れば鬱も居る。鬱の人なら突然話しかけられて怯えてしまうのも分かるけど、統合失調症や自己顕示欲が強すぎる人達ならば、我々が刑事や探偵と分かった時点で有る事無い事を喋っても可笑しくありません。」


「でも彼達は頑なに口を割らなかった。……まるで、平沢にそう指示されていたかのように。」



「もし、患者達が本当に事件に無関係なら?そんな事、平沢は言わないはずだ。でも、もし……平沢が意図的に患者をコントロールし、子供達を誘拐させていたのならば?勿論、口を割るな、と言いますよね。自分の事を教祖として慕ってくれているなら、尚更だ。」



「………。」


恐怖で身の毛も弥立つ様な大河の話しのせいで、会議室には物音一つ聞こえない。

普段なら偉そうに部下に指示を出しているであろう現警察庁トップの岡田さんですら、大河の見立てに驚きを隠せずに黙りこくっている。

まあ、私の大河はそんな風景を見て口を閉ざす様な人間ではないけれど。


「変な話しですよね。まるでアメコミみたいですよね。でも……でも、これなら全て納得が行くんです。」

「何故18年もの間、犯人の目撃情報が出なかったのか。一つも共通点が無かったのか。」


「そりゃ共通なんてするはず無いですよね。子供が10人誘拐されれば、平沢は自分の患者10人を振り分ければ良いだけの話しなんですから。」



「でも、それじゃあ青海さんは……青海サクラさんを狙っている「それはほぼ確実でしょうね。」


見るからに焦りきっている久本さんが珍しく、話の途中で大河に詰め寄った。


「ナンバープレートの3991は、サクラだ。これは間違い有りません。」

「サクラは………」



「此処にいるサクラは昔、誘拐未遂に遭った事が有るんです。その時、サクラは泣いている男性に自分の自由帳を見せた。その自由帳には、こいつが得意とする桜の切り絵が満開に有りました。」

「そうだよな?サクラ。」