甘ったるいハニートーストの様な香りと、ほろ苦いブラックコーヒーの様な香り、意外にもミスマッチに思える二つの香りが私の脳を刺激した。
……空腹に弱いのが人間なのだろう。
まだ眠たいと云うのにも関わらず、うっすらと目を開けた視線の先には、スキニージーンズを履いて上半身裸の大河が居た。
「あ、やっと起きた?」
「やっとって……今何時?」
「10時。チェックアウトは昼の12時までに伸ばしたからゆっくりしとけば。あれだけ抱かれたら、そりゃ当たり前にしんどいだろ。」
──遠目から見たら、それこそ本当にシャーロック・ホームズみたいだ。
まあ、ホームズがジーンズを履いているイメージは無いけれどあの人も裸族だし。大河も程よく筋肉で引き締まった上半身を見せびらかすかの様に、偉そうに椅子に座りながらコーヒーを飲んでいるんだから。
「‥‥っていうか、腰痛いんだけど。」
乱れきったベッドを見て、自分の腰の痛みを再確認して、昨夜の事を思い出す。
「そりゃ、痛いだろ。お前何回イッたと思ってんの?しかも朝の5時まで何だかんだヤッてたんだから、腰も悲鳴上げて当たり前に決まってんだろ。」
……いやいや、イカせたのは誰だよ。
とツッコミたかったけど、あれだけの運動をしてまるで悪魔に引っ張られたかの様に先程まで無心で眠っていた私にそんな元気は無い。
あからさまなため息をついてから、ベッドの下に落ちてあるバスローブを着て、腰に手を当てながら大河の前に座る。
「何コレ、結構豪華だし。朝食を部屋に持ってきてもらったの?」
「いや。朝食は頼んでない。なんか、ホテルの人曰く国民の代理でお気持ちとしてどうぞ、だってさ。」
「国民の代理?」
「まあ要は、事件解決に向けて頑張ってくれて有難うって事だろ。」
「ああ、なるほどね。」
プチトマトを一個頬張ってから、おしゃれな容器に入った水をグラス一杯に注いで一気飲みした。
そんな私を見て、心底馬鹿にした様な笑顔を向ける大河の言いたい事なんて大体理解出来る。
「まあ、そりゃ「はいはい。あんだけ喘いだら喉も乾くよなって言いたいんでしょ。」
手でシッシ、と彼を追い払う様な仕草をすると、ふんっと鼻で小さく笑われる。まあ、これぞ何時もの神埼大河だろう。
昨日は……確かに相当な体力を使ったけれど、あのお陰で大河が大河らしくなれたのなら、私が彼の側に居る事も無駄じゃないってことだ。
