「……まあ、警察の見立てとして平沢健一はほぼクロだな。それは間違いないと思う。」
フランス製のバスローブを着ながら、シャンパンを飲み干してから煙草に火を付ける、普通ならキザで笑ってしまう仕草さえ、大河ほどのイケメンがすると絵になってしまうのだから、顔立ちの良さは最強の❝weapon❞だよなあ、と熟思うものだ。
「そりゃ……そうよね。」
「ああ。警察内部の人間が、平沢医院に通ってた患者達に任意で話しを聞いてるけど、調べれば調べるほど異常行為が目立つのも事実だしな。」
「異常行為?」
「セラピー中にまるで自殺をほのめかす事を言ったり…突然病室を歩いてウロウロしだしたり…一言で言えばアメコミのジョーカーみたいな。」
「はいはい。サイコって事ね。」
「そ。でも皆揃って平沢健一の事を教祖扱いするワケだ。あの人が居たから今の私が居るとか、あの人は日本の精神医学の神だ、とか。」
自殺を仄めかしたりする先生が何故、神になるのかは分からない。……でも、時にはそういう方法が相手を立ち直させる第一の治療法にもなると云う事なのか?
きっと大河だけじゃなく、久本さんや三島さん等他の人達も、そこが理解出来ないからこそ、平沢を不審に思ってしまうのだろう。
「物的証拠も状況証拠も無いこの状態で令状なんか取れねえし、任意で同行かけたところで相手が応じるかどうかも不明だろ?」
「確かに。しかも、息子がその間に子供達を移動させたりする事も有り得るしね。」
「そうそう。そこも問題。」
「移動させてる所を現行犯で捕まえれば話しは変わるかもしれねえけど、十年越しで証拠を残さず誘拐し続けてる以上、そんなヘマはしないだろうしな。」
「これぞ、行き詰まりってやつ?」
「……悲しい事に、な。」
付け合せのチョコレートを口に放り込んだ大河は、やっぱり見るからにストレスが溜まってそう。
そんな彼を見かねて、私はグラスをテーブルの上に置いてから彼の後ろに回り込んで肩に手を置いた。
「お、マッサージ?」
「うん。資料とかパソコンとにらめっこばっかりしてたら肩も凝るでしょ。」
「まじ助かるかも。たまには役立つじゃん。」
「なっ、たまにはってね…!」
大河の何時も通りの嫌味に対して、思い切り肩を殴ろうとすると、一瞬にして腕を掴まれてしまう。
「何よ?」
「なあ、サクラ。」
「はい?」
「………。」
座る大河を後ろから抱き締めているかの様な状態。
腕を引っ張られたせいで、彼の耳が私の唇の直ぐ横にあった。
「抱いていい?」
「………ッ!」
