神埼探偵事務所




「この度はお集まり頂き有難う御座います。ええ…先に本日同席頂いてる神埼君の方からお話をして貰おうと思っております。その後に質疑応答の時間をご用意しておりますので、記者の皆様宜しくお願い致します。」


捜査一課長が慣れた口ぶりでそう言うと、私の大好きな幼馴染も又慣れた様子でマイクに口を近付けた。

それと同時に眩しいほどのフラッシュに見舞われる。毎回こんな感じでインタビューを受けてるんだな、と思うと一気に彼が遠い世界の人かの様に思えた。


「……三島課長からお話頂きました通り、質疑応答は後ほど宜しくお願い致します。本日、警視庁の記者会見に同席させていただきます神埼大河です。」


「ええ…先ず最初に、今僕が担当している事件についてご説明できる範囲で捜査の進展等を話していきたいと思います。」



「事件の概要は既に報道されてある通りです。10年以上前から続く連続誘拐事件、誘拐されている子ども達に特にこれといって共通点は無く、性別もバラバラでした。」

「警視庁と僕の見立てとして、先ず第一に犯人は精神疾患持ちで有る事が予想されます。」


「そして、もう一つ。」

「これは始めて公の場で口に出しますが誘拐された子達は全員行方不明になってから2、3日後に家の近くへランドセルが返還されています。給食袋の中には、桜の花びらの様な切り絵が一枚。これが今後事件解決へと続く大きなポイントになると思っています。」



「ですが依然、公表できる犯人の特徴等は無く物的証拠等は整っていない状態で「女が出来たから推理力が鈍りました?!神埼さん!」



──あれほど、質疑応答は後で。と言われていたのにも関わらず、私たちからほんの数百メートルしか離れていない距離に座る、お腹の出た記者が手を上げながらそんな事を言ってみせた。

私たち刑事側の人間は全員厳しい顔つきになるけど、記者側としては面白くて仕方無いのだろう。

クスクスと聞こえる小さな笑い声が私にムカつきを覚えさせる。



「……はい?」


【神埼君、ここは抑えて……!】

用意されたマイクに声が通っていると云うのに三島さんと久本さんは、必死にピクっと眉を上げた大河を宥めようとしている。


そしてそれを見て、どどの詰まりかの様に又も意地悪な質問を投げかけるのだから、マスコミと云うのは本当にうざったい。


「神埼さん、貴方に聞いてるんですよ!」

「前まではアメリカやシンガポールで散々、事件を解決していたのにも関わらず、日本では好きな女の子とデートして金に成らない事件は要らない、解決したくもないって事ですか?!」



「………。」


大河パパをチラリと見ると、あくまでも平然を装っているけれど……私には分かる。彼も内心、腸煮えくり返っているはずだ、と。

本当なら部下に命令してあの失礼な記者を退出させたいのだろうけど、今日はこの記者会見を生放送で報道しているワイドショーがいくつもあるから、そんな事が出来ない。


それを分かって、あんな質問しているのだとしたら──あいつは記者ではなく、ただの井戸端会議が好きな外道でしかないだろう。