「本日は、ありがとうございました。」

気がついた頃には日も暮れ始めていた。年甲斐もなくたくさん泣いてしまった。しかし、ここに来て本当に良かったと思った。

「また、ご縁があればご利用下さい。」

真胡さんが扉の前で微笑む。

「もちろん、そのような日が来ないことを願いますが。」

ここは亡くなった方が近くにいらっしゃる人が訪れる場所ですからね、と唯人さんは言う。


「唯人さんも、真胡さんも扉の前までわざわざありがとうございます。」

「それでは、さようなら。」

畳んでいた日傘をもう一度差して、前を向いて明るい方へ歩き出す。



ーーー

「ねー、唯人。あのハンカチって長い間愛されている有名なブランドのやつって知ってる?」

「え、そうなの?」

「本当に、旦那様はあのハンカチをずっと大切に持っていたのかな。私だって同じもの持ってるし。」

「それってどういう意味」

「さあ。本当のことは誰にも分からない」

ただ1つ言えるのは、

「遺品は嘘をつかないってこと。」