「…そんな。」

「私は愛されていなかったの…。」

私の目から、何かが溢れてくる。溢れて止まらないので、さっき飲み干したアイスコーヒーが体に入りきらなくて溢れてしまっているのではないかと思ってしまう。


でも溢れたものはとても温かくて、きっと冷たいアイスコーヒーでは無いんだと思う。

真胡さんが鳥籠のような容器からハンカチを取り出して私に渡す。

私は受け取ったとき何か手に硬い感触がしたのに気がついた。
それは、ハンカチの中から感じるようだった。


唯人さんが私に優しく語りかける。

「ぜひ、ハンカチを開けてみてください。」

溢れるものを抑えながら、私はハンカチをペラっとめくった。するとそこには写真が挟まっていた。

少女と少年が仲良く手を繋ぎながら笑っている。そしてその顔には見覚えがあった。

「これって…私?」

幸せそうに笑う少女。それはまさしく幼い頃の私だった。そしてその隣には、

「…どうして彼が?」


とても幼い少年だが、夫の面影がある。目の下のホクロ。これは絶対夫なんだと確信した。

そして、少年の手には、この写真を包んでいるのと同じハンカチを握っていたのだった。

確か、昔私は両親の都合で遠くに引っ越したことがあった。そして両親から仲良くしていた男の子がいた、と聞いたことがあった。



雲に隠れていた太陽が徐々に覗き出して、また窓から光を差し込ませていた。



すると真胡さんが、私に話し始める。

「きっと、旦那様はあなたと昔会ったことを覚えていたのですよ。」

「そして、そのハンカチはおそらく貴方様が昔使っていたもので、なんらかのきっかけで旦那様にプレゼントされたものなのではないでしょうか。」

…そうだ。思い出した。このハンカチは…。

昔、大事にしていたハンカチで、遠くに行くことに決まった時、また会えますように、と、その少年に渡したものだった。



「彼は私をずっと愛してくれていたんだ…。よかった。」





やっぱり溢れ出すものは止まらなかったけど、心がすっきりと晴れていくような気がした。