どうしよう、上司に相談、いや、警察……だけど大事にしたくない。
教師としてようやく落ち着いてきたのに、なにかあって冬子さんたちに心配をかけたくない。
……もう私も大人なんだから。
これくらい、流さなきゃ。
なんてことない顔で、なかったことにするだけ。
「怖くてつらくて……だけど周りに迷惑をかけたくなくて、私はなかったことにしようと決めたんです。……でも翌日学校に行ったら、前日のことが噂になってた」
勇気を出して出勤をした私を待ち受けていたのは、事実無根の噂たちだった。
『杉田先生と村瀬先生が、昨日資料室でヤってたんだって』
『杉田先生が村瀬先生を誘ったらしいよ』
あることないことに尾ヒレがついて、最終的に若い女であり一番立場が弱い私のせいとなっていた。
村瀬先生も保身のためか、否定するどころか自分は被害者だと言い出し、私は問題教師のレッテルを貼られた。
「否定しても誰も信じてくれなくて、守ってもくれなくて。他の先生からは軽蔑されたうえに、生徒からもからかいの対象にされて……心が折れちゃったんです」
味方なんて、どこにもいなかった。
『これだから若い子は……あなたみたいな人、教師になる資格なんてないわ』
上司や同僚の冷たい目。
『知ってる?杉田先生みたいな人のこと、インラン教師って言うんだって』
『やだー、そんな先生の授業なんて受けたくなーい』
生徒たちの笑い声。
あんなにも必死になって掴んだ夢も、いとも簡単に崩れて消えた。
最終的には話を聞きつけた保護者からクレームが入ったことで、私は自主退職を勧められて、それをのむしかなかった。



