「あら!副社長どうされたんですか?」
「いろいろあってな。春生を連れて少し休みたいんだが、上の部屋は空いてるか」
「はい、空いてますよ。では今お着替え等用意いたしますね」
増田さんはそう言って、バタバタとその場を去る。
他の仲居さんに連れられて、私と清貴さんは最上階……3階の部屋に通された。
その部屋は、フローリングと畳が障子で区切られた和モダンな造り。
大きなソファと奥にはベッド、そして窓からは芦ノ湖が一望できる。俗にいうスイートルームだ。
「すごい部屋……」
「うちの旅館で一番いい部屋だ。今日はたまたま空いていてラッキーだったな」
清貴さんはそう言ってジャケットを脱ぎネクタイを外す。
「そのドアの向こうに露天風呂がついてる。あったまってこい」
「えっ、でも私より清貴さんが……」
「いいから。先に入らないなら一緒に入るか?」
いっ一緒に!?
それはさすがに恥ずかしい!
「入ってきます!」
慌てて露天風呂へ向かうと、後ろからは彼の小さな笑い声が聞こえた。
脱衣所で服を脱ぎ、露天風呂へ入ると、温泉のあたたかさにほっと体がほぐれた。
辺りは木々に囲まれて、向こうに芦ノ湖の水面が見える。
もうすぐ夕方を迎えようとしている、陽が傾き始めた空を見上げて目を閉じると、鳥のさえずりが聞こえて落ち着いた。
さっきまでの動揺が嘘みたい。
きっと私ひとりだったらまた塞ぎ込んでいた。だけど、清貴さんがいてくれたから。
『受け止めてみせるから』
本当の自分を見せるのは、怖い。
だけど……その言葉を信じたい。
清貴さんになら、話せるんじゃないかって思えた。



